【サローネ対談 第8回】 藤元健太郎 × 村上 憲郎(株式会社 村上憲郎事務所 代表取締役 /
前Google日本法人名誉会長 / 元Google米国本社副社長兼Google日本法人代表取締役社長)

震災を乗り越える、日本の復興へのビジョン


編集部:今回でサローネ対談は第8回を迎えました。

 今回は、いつものようにITによる社会システム革新に詳しいディーフォーディーアールの藤元健太郎さん(以下敬称略:藤元)と、 Google日本法人元社長の村上憲郎さん(以下敬称略:村上)にお越しいただいております。 お二人には、「震災を乗り越える、日本の復興へのビジョン」というテーマで、お話をお伺いしたいと思います。

● 震災から復興して前に進むための「スマートグリッド」

藤元:村上さんはこれまでGoogle の日本法人の社長,会長として成長を引っ張られてきました。 その当時から日本のために新しい社会システムはどうあるべきかということを色々なところで情報発信されていました。 現在Googleを辞められてより自由に発信できる立場になられましたので、今回の対談では自由な立場から、 日本がこれからどうやってこのピンチをチャンスに変えて新しく国づくりをしていくか、そのためのご提言をしていただきたいと思っています。

村上:3.11が起きてからの一か月というのは本当に大変でしたね。そんな中で「あいつが悪かった」「だれが原発をつくったんだ」といった ただ後ろ向きな話をしていても先に進めませんよね。これから亡くなった方々の尊い犠牲に報いるためにも、 ここからどう新しい日本を創っていくか、と前向きに考えていく必要があると思います。「チャンス」というと不謹慎に聞こえるかも知れませんが、 これを契機にして前へ進んで行かないと亡くなった方々も浮かばれないと思うんですね。

 社長職を退いて会長に就任した時に、オバマ政権が打ち出した「グリーンニューディール政策」のITに絡むテーマを日本でも追究することにしました。
その中にスマートグリッド(賢い電力網。電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送配電網。 専用の機器やソフトウェアが、送配電網の一部に組み込まれていく。)がありました。

 Googleとしてはスマートグリッドを考える2つの理由がありました。まずデータセンターがとんでもない電力を使う、ということ。 節電しているのだけども、PUE(データセンターのエネルギー効率を示す指標の1つ)を1.0という最効率理想値に近付けたとしてもそのPUE=1.0という電力は必要です。

 ざっくり言うとGoogleは電力を原発1基分(100万KW)くらい使っているわけです。 PUE=1.0だとしても、それがどんどん増えていくので、いかにして廉価で安定的な電力をサステナブルに手に入れていくか、 というところで、再生可能エネルギーに注目したわけですが、不安定な再生可能エネルギーが入ってきたときの コントロール手段としてのスマートグリッドが必要というのがひとつの理由です。

 2つ目の理由はインターネットビジネスの観点です。PC、ケータイ、TVと次々とインターネットにつながってきましたが、スマートグリッドが普及すると、 電源につながるものがすべてインターネットにつながります。Googleとしてはビジネスの「すそ野」が広がることになります。ユーザーや広告主も広がります。

 電力システムのアメリカの事情と日本の事情は違いますが、このスマートグリッドが日本に十分伝わっていないので取り組むことにしました。


● 瞬間最大量をまかなうための設備づくりをしてきた日本

村上:震災が起きた結果として、集中型の発電や上流から一方的に流れて来る電力供給といったシステムがもう成り立たなくなりました。 また、原子力発電所で支えていたベースロードの発電が毀損しています。そうなるとあらゆるところが自家発電という自己防衛を考え始めているし、 太陽光・風力・地熱・小型水力等の多様な発電が必要となり、始まります。そうなると、そのような小口の発電を支えるスマートグリッドが必要になります。

 一方では、電力の需給が逼迫してきますので、需給バランスを維持するために、電力の需要家側(デマンドサイド)をマネージしなくてはなりません。 それにもスマートグリッドが大きな役割を果たします。需給逼迫と言いましたが、実際は夏の8月の10日間くらい、 13時から15時くらいまでの「一番暑くて電力を使う時間帯」が問題なんです。その時間帯に、どのように需給バランスが壊れているかと言うと「KW」が壊れているのです。 「KW時」ではないのです。東電がピーク需要の6000万KWに対して一生懸命発電設備をかき集めて発電容量を積上げてきて、 「5000万KWになりました」「今週になってなんとか5500万KWです」と発表している単位は「KW」なのです。「KW時」では無いのです。
つまり、日本の電力安定供給体制という仕組みは、日本の人たちがとにかく湯水のごとく使う 電気の『瞬間最大需要電力(KW)をまかなえる発電設備容量(KW)』をつくり続けていたのです。 ベースロードの原発が毀損してきていますので、この体制の維持は、難しくなったと言わなければなりません。

 我々は「KW時」を基準にして電気料金を支払っていますが、実をいうとこの料金体系は、通常全然使っていない遊休設備コストまで我々が支払っている計算になるのです。 燃料代といったランニングコストを従量課金で払っているのならいいのですが、それが丼勘定の総括原価主義になっていて消費者は分からなくなっています。 そして、我々は8月の十数日間のために物凄い設備を維持させられているわけです。勿論そのおかげで、 停電のない安定的な電気の供給を受けることが出来ていたことも確かです。

 諸外国を見てみると、国民ひとり当たりの年間電力消費量(KW時)は先進国ではあまり変わりません。 ただし、ひとり当たりの「総発電設備容量(KW)」は日本が突出している。なぜかというとピークカットやピークシフトと呼ばれる融通をし合っていないからです。 つまりそれは今までの電力システムが年間数日のピーク需要電力(KW)を賄うに足る発電設備容量(KW)を準備しておくという安定供給体制だったからです。 それを国民はあまり知らされていないし、国民に知識もないし、勿論、電力会社も政府も悪意をもってそうしていたわけではなくて、 そういう安定供給体制という仕組みを選択して来たというだけなのです。



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