【サローネ対談 第4回】 藤元健太郎 × 株式会社東急ハンズ IT企画部長 通販事業部長 長谷川秀樹 

日本にソーシャルメディア維新がやってきた

●開発・生産・販売・アスターサービスが顧客に向けて一体になった組織へ

編集部:マーケットが変化した中で対応に有用なツールもあるのに、そこに経営資源を投入できないのは、硬直化した組織とか人の問題なのでしょうか?

藤元:ECの世界で、一つのジャンルに特化して伸びている会社がいくつかあります。 そうした会社は、お客さまをどうやって満足させ長期契約をしていただけるかに向けて全組織が一体化して活動し、 システムも機動性を考えシンプルに設計されています。

 ところが典型的なメーカーは、やはり生産現場が強くて、社内でも売る人たちとのコミュニケーションがない。 それどころか対立しているところもあります。販売は売る人たちにお任せなわけです。 そうした環境で長年育ってきた人たちに、今はソーシャルメディアだから生産の方も一緒にお客様とコミュニケーションをして PDCAを回しましょうなんてことは理解されても体が動かないのです。「お客様の声は、商品開発部で検討してくれ。 こちらは品質とコストに命をかけてるんだ。」となるわけです。

 今好調なEC企業は顧客とのコミュニケーションがリアルタイムで行えるチャネルをしっかりと持っていて、 しかも本部から指示が出たら次の日にオペレーションが変わっているくらいの俊敏さも持っています。


●部分最適で刹那的なKPIの設定が売上低下を招く

藤元:それでは、そろそろ東急ハンズの話をしましょう。私も東急ハンズの大ファンなんですが、すごくワクワクする空間です。 何よりもそこに専門家でこだわりを持った店員さんたちがいっぱいいることが魅力です。 これからのソーシャルメディアの使い手として高いポテンシャルを持った企業体だと思っているのですが、いかがでしょうか?

長谷川:私もいまの時流に合った企業だと思っています。昔のチェーンストアのように棚に置いてあったらそのまま売れてしまう時代ではなくなっています。 今は、多種多様なものをみなさんが欲するようになってきたということで、まさに波が来ているという感じです。

長谷川:ところが、経営管理という面では難しいところも出てきています。例えば東急ハンズではヒントスペースという実演や展示をやる特設スペースがあります。 ヒントスペースは、お客様にヒントを提供する場所であり、そこで商品を大量陳列して売るための場所ではないので、坪あたりの売上高は低いです。 売り上げが好調なときには「面白いから、やっちゃおう!」ということでいいのですが、 売り上げが落ちてくると「そこのスペースに何か商品を積み上げたほうが売り上げを稼げるんじゃないか?」となるわけです。 そのスペースでの売り上げは確かに短期的には上がります。

 ただ社員の中に、「そうなったら俺ら終りだよ。」「それをやったら、もう東急ハンズという業態としては終わっちゃう。」という共通の感覚があるので、ぎりぎり支えられています。 それでも、店長や管理側は数字で坪効率とか見せられると心が揺らいでしまいます。 そこで私が考えているのは、帳票設計を私の部著で担当しているので、細かい面積区分での坪効率の数字を出すのをやめて、お店全体の店舗効率くらいにできないかということです。 例えば、ヒントスペースのエリアを売り場としてではなく、直接的な売り場扱いにしないことです。そうなると売上管理対象から外れます。 坪効率の指標で自分の評価が決まるとなると、置いてある品数や空間占拠率などを追いかけるようになるのは自然なことです。

 このように自分たちのミッションから考えてKPI(重要業績指標)を見直さないと、売り上げの上下によって戦略に迷いが出てしまうのです。

藤元:今の話は非常に重要ですね。現在のECサイトにおいても最大の課題はKPIが刹那的でかつ部分最適になっていることです。 ARPU(顧客当たり平均収益)の上昇や獲得コストの低下を実現するためにROI(投資対効果)をとらえる指標としてページビュー数やクリック数をKPIとして設定しているところがあります。 そうすると担当者は、その数字だけを追いかけ、サイトの変更をしてしまいます。 「今日の目玉商品70%オフ!」のような広告をトップに大きく派手にドーンと持ってきて、デザインとかテイストとか一切関係なく、 ひたすら価格訴求型のマインドに訴えることを狙うのです。 ユーザーが検索エンジンでランディングしてきたら、速攻でコンバージョンして発注に持っていくみたいに導線を考えてしまいます。

 メルマガの活用も同じです。メルマガを見て60%の人が好感を持ち購買に進み、残りの40%は情報に誘導されるのを嫌う人たちだとします。 こうなるとメルマガを打てば打つほど少しずつでも購買の累積数は増えていきます。 しかしながら、残りの40%はどんどんそのショップが嫌いになっていくわけです。 スパムメールのように扱われ、来ても読まない人達を増やすことにもつながっているのです。

 結局、KPIを細かく設定しすぎると、その罠に陥るのです。全体は部分からなっているけれど、部分は全体を表さないということです。 日本企業は、現場の人が頑張っちゃうから結果をひたすら追い求めようとして、行く道を誤る。 気が付いてみるとブランド力が低下していたり、メルマガに対する顧客の期待もCSも下がっていたりする。 たとえわかっていても、売上を上げるためにより頻繁にメルマガを打つのですよ。 ECサイトを運営しているところでは、最近メルマガを止めたほうがいいのではと気付いている人も増えてきました。 それでも止めたら売上が落ちるから止められないというのは、先ほどの売り場の話と同じですね。

 管理の細分化による売上の低下はECサイトでも起きているのです。

長谷川:そうなんですか。全体最適ということでは、チームワークというのも最近重視しています。以前は担当エリアの売り上げが担当者の評価に直結していました。 すると、極端な話、フロアの向こうのほうでお客様が困っていても行かない可能性があるのです。自分の売り場を空けている間にお客様が来て逃してしまったらどうしようと悩むわけです。 そこで今では担当エリアの売り上げによる評価割合を下げて、代わりにフロア全体のチームへの貢献度というものをぐっと引き上げることにしています。


●お客様のライフタイムバリューを上げるための新しい試み

藤元:マーケティング3.0にもあるように、理想的なKPIは顧客との共感力であるライフタイムバリューだと思います。 お客様が1年間に東急ハンズで落してくれた金額が昨年と比べて上がったということが重要です。 お店が与えてくれるワクワク度や付加価値の代替指標になります。 お店側の指標で見てしまうと、その日の売上高とか、前年同月比とかの話になり刹那的な対応につながります。 来ていただいているお客様の可処分所得の中で占める割合が何%増えたというのが、これからの時代の指標になっていくと私は考えています。 幸いITがこれだけ発達してくると、こうした数字の可視化もできるようになってきました。

長谷川:私も売上高を追いかけることだけでは事業体として立ちいかなくなるという認識は持っています。そこで新しい事をいくつか考えているところです。 例えば、店内にモノづくり教室を作って、ハンダごてや万力、丸のこ、旋盤などを使えるようにする。 そこに先生がいればカルチャースクールっぽい運営も可能です。 ともかく単純な売り場じゃないスペースで、そこに来て時間を過ごしていると気持ちよくなって帰れるようなしかけです。 結果として帰りにでも何か買ってもらえればいい。時間消費型のビジネス、物販ではなく、サービス販売の比率を上げていかなければならないと感じています。

藤元:ワクワク感というのを我々は東急ハンズに期待していますからね。私の若いころはデートコースの定番でした。 まず最上階までエレベータで行って、そこからぐるぐる歩いて見て一番下の階まで下りていく。 とりあえず一緒にいる女の子との会話に困らないネタがたくさんあり、当然会話は盛り上がるので、デートもうまくいく。

編集部:それは、藤元さんのライフタイムバリューにだいぶ貢献していますね。(笑)



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